狩猟の話 3

寒雀。

狩猟を始めようと思ったきっかけのひとつ、寒雀の話。それは冬になってぷっくりとふくれた雀が窓の外の電線の上に並ぶようになると毎年のように母から聞かされた話である。私の家は田舎の小さな町で小さなタクシー屋を営んでおり、事務所には運転手さんが出入りをしてご飯を食べたりお茶を飲んでいたりしていた。母は時々電話番をしていたのだが、冬のある日一人の運転手さんがストーブで何か焼いているので何を焼いているのかと母が尋ねるとなんと雀を焼いているという。母は「えっ!雀!」とびっくりしたそうだが、運転手さんは「うめがら食ってみらいん」と塩をさっとかけて差し出したそうだ。とはいえ雀である。50年前の東北の田舎といっても雀を食べることは普通のことではない。恐る恐る口に運び食べてみたところ、脂の乗った寒雀はそれはそれはおいしかったそうで、それ以来、小雪がちらつく中でふくれた寒雀を見ると「おいしそう!食べたい!」となるということだったのでよほどおいしかったのだろう。そんな話を聞かされて育ったので雀を食べてみたいと思い、子供の頃にはざるを使ったわなで捕まえようとしたり、おもちゃの鉄砲で雀を撃とうとしたことがあったが捕まえることはなかった。

雀を初めて獲ったのは狩猟を初めて2年目、今から8年前のことである。カモ撃ちへ行こうと小さな川へ行くと30羽ほどの雀の群れが対岸のススキと田んぼを行ったり来たりしている。ススキまでの距離は30m。問題なく狙える距離である。ススキにとまるのを待っていればチャンスがありそうなので土手に腰をおろして雀を待った。しばらくすると雀の群れがススキに戻ってきた。ようやくチャンス到来だ。1羽の雀に狙いを定めて引き金を引くとパンという音のあとに雀が落ちるのが見えた。「あたった。」対岸に渡りススキの中に落ちているであろう雀を探す。冬枯れの中にちいさな雀を探すことは苦労したが、しばらくして見つけることができた。この日、雀はは2羽獲れた。

翌日。いよいよ念願の雀を食べることになった。七輪に炭をおこし、しょうゆ、酒、みりん、砂糖でタレを作った。丁寧に毛をむしった雀を網にのせる。思い出話は塩味だったがどうやらタレ味が定番らしいのでタレ味にした。少し炙ったらたれをからませまた炙る。タレが焦げた香ばしい匂いとともに雀は焼き上がった。実にうまそうである。雀は頭も含めて骨ごと食べることができるとのことなので丸ごと食べてもいいのだが、まずは小さなモモ肉をかじってみる。わずかな量だが香ばしいタレの味のなかにしっかりとした肉の味わいがある。これはうまい。ここで熱燗をおちょこできゅっとやる。うまい。実にうまい。雀には酒だ。続いて頭をかじる。カリッとした食感の後に白子のようなコクのある脳味噌の味がつづく。そこへまた酒。余韻がふわっと広がっていく。残るは小さな胸肉だ。ポリポリと軽い感触の骨と弾力のある肉の味とかすかなほろ苦さ。うーむ。うまい。これぞ酒のつまみだ。念願の雀は子供の頃に描いていたものとは異なりすっかり酒のみの趣向となってしまったが、少年の頃、雀を獲って食べてみたいと思ったことが純粋に狩猟へと続いている。

近年、雀は減少傾向にあるのだという。子供の頃はどこにでもいたような気がするがそういえば最近は見かけることが少なくなった。雀は数年に一度、一羽二羽くらいとして少しの楽しみとするくらいがいいのかもしれない。今年もまもなく狩猟の季節だ。